ゴッホの代表作のほとんどは、晩年のおよそ3年間に集中しています。色彩溢れる南仏アルルに移住したゴッホは才能を開花させ、数々の名作を生みだしました。
ゴッホの代名詞ともいえる《ひまわり》《夜のカフェテラス》《ファン・ゴッホの寝室》など、アルル時代を中心に、ゴッホの代表作を紹介します。
ゴッホの代表作(1)ひまわり
ゴッホの代表作と言えば、まず思い浮かぶのは《ひまわり》でしょう。モダンで力強く、とても大胆。でもエレガントな気品もあり、思わず見入ってしまいますね。
フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》1888年 ナショナル・ギャラリー蔵
言わずと知れたゴッホの名作《ひまわり》は、実は一枚だけではありません。アルル時代のゴッホは、花瓶に生けられたひまわりをモチーフに、7点もの作品を描きました。
どのひまわり作品も、構図はほぼ同じ。ただひまわりの本数が、3本、12本、そして15本と異なり、背景の色も違います。
7点描かれたひまわりですが、現存しているのは6点のみ。兵庫・芦屋の実業家、山本顧弥太氏が所有していた通称“芦屋のひまわり”が、残念ながら戦争中に焼失してしまったのです。
幻となってしまったひまわりは、今はもう見ることはできません。ただし徳島・鳴門の「大塚国際美術館」(>>>公式サイト)で原寸大の陶板作品を見ることができます。
また現存する6点のうちの1点が、東京・新宿の「東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館」(>>>公式サイト)で常設されています。
7点のうち2点ものひまわりが、日本と関係があるのです。ゴッホと日本の縁を想わずにいられません。
ゴッホの代表作(2)夜のカフェテラス
ゴッホの代表作と言えば《夜のカフェテラス》も有名です。
フィンセント・ファン・ゴッホ《夜のカフェテラス》1888年 クレラー=ミュラー美術館蔵
南仏アルルの美しい星空と、ガス灯のまばゆい黄色に包まれたカフェテラス。青と黄色のコントラストが、ゴッホらしさを想わせる一枚です。
穏やかな夜の空気、一日を終えてくつろぐ人の気配、そしてガス灯の暖かな光。この絵には心地よさが溢れていて、色彩の美しさに心奪われます。
ゴッホが描いたカフェは、戦災にあったものの再建されました。現在も同じ場所で「カフェ・ファン・ゴッホ」という店名で営業しています。
ゴッホの代表作(3)耳に包帯をした自画像
ゴッホは自画像をたくさん描きました。特に《耳に包帯をした自画像》は有名ですね。
フィンセント・ファン・ゴッホ《耳に包帯をした自画像》1889年 コートールド・ギャラリー蔵
ゴッホの画家としてのスタートは遅く、27歳のときのこと。およそ10年の間に残した自画像は約40点にも及び、精力的に自画像を描いたことが分かります。
この絵は、いわゆる“耳切り事件”の後に描かれたもの。背景に目をやると、浮世絵があるのに気づきます。痛々しさを感じると共に、ゴッホの徹底した浮世絵好きが伝わって、なんだか温かい気持ちに包まれます。
この絵の後も、ゴッホは自画像を描き続けます。ところが欠けた耳を嫌がってか、これ以降はすべて、反対向きに描くようになりました。
ゴッホの代表作(4)ファン・ゴッホの寝室
ゴッホの代表作に《ファン・ゴッホの寝室》もあります。アルル時代にゴッホが暮らした“黄色い家”の、その名の通り寝室を描いた絵画です。
フィンセント・ファン・ゴッホ《ファン・ゴッホの寝室》1889年 シカゴ美術館蔵
ベッドを彩るバターのような黄色や、壁の明るい水色。鮮やかな色彩で、まるで子ども部屋を描いたかのような愛らしさがありますね。
この部屋は、もちろん子ども部屋ではありません。れっきとしたゴッホの寝室でした。絵の左に見える扉の向こうには、共同生活を営む画家・ゴーギャンの部屋があったと言われています。
実は《ファン・ゴッホの寝室》は3枚あります。なぜかというと、最初書いた一枚が劣化したため。近くの川が氾濫し、湿気の影響で色褪せてしまったというのです。
同じ絵を描いたことからも、ゴッホ自身《ファン・ゴッホの寝室》を大切にしていたことが伝わりますね。
ゴッホの代表作(5)アルルの跳ね橋
ゴッホの代表作として《アルルの跳ね橋》もあります。ゴッホはアルルに移住してから、橋を繰り返し描きました。
フィンセント・ファン・ゴッホ《アルルの跳ね橋》1888年 クレラー・ミュラー美術館蔵
この絵には、澄み切った青空と、川辺で洗濯する女性たちが描かれています。春の穏やかなひとときを描いた、とても美しい一枚ですね。
モデルとなった橋は、地元ではラングロワ橋と呼ばれる橋です。アルルの中心部から3キロほど離れた運河に架けられていました。
アルルの跳ね橋は、1930年にコンクリート製の橋に架け替えられました。跳ね橋は別の場所に再現され、「ファン・ゴッホ橋」と名付けられています。
アルルの跳ね橋は、ゴッホが魅了されていた歌川広重の浮世絵《大はしあたけの夕立》に感化され描いたとも言われています。
今から約130年前、ゴッホがこの橋を見て遠く離れた江戸名所を想って絵を描いた……そう思うと、ゴッホが身近に感じられます。
ゴッホの代表作(6)星月夜
ゴッホの代表作には《星月夜》もあります。ゴッホの絵の特徴である、渦やうねりが印象的ですね。
フィンセント・ファン・ゴッホ《星月夜》1889年 ニューヨーク近代美術館蔵
星月夜はアルルではなく、サン=レミの療養所で描いた絵です。病室から見える景色を眺めながら、幻想的な絵を描きました。
ゴッホは夜空を、さまざまな青で表現しています。夜空を見れば、深い青もあれば、淡い青もあります。黄色味を帯びた、穏やかな青もあります。とても青が美しい一枚です。
そして青が美しければ美しいほど、三日月がくっきりと明るく輝きます。青と黄色のコントラストを描き続けた、ゴッホだからこそ描けた名作ですね。
ゴッホの代表作(7)花咲くアーモンドの花
最後に紹介するゴッホの代表作は《花咲くアーモンドの花》です。この作品は、弟テオに息子が生まれることを知ったゴッホが、サン=レミで描いた絵。心を込めて描いた一枚です。
フィンセント・ファン・ゴッホ《花咲くアーモンドの木の枝》1890年 ファン・ゴッホ美術館蔵
早春に咲くアーモンドの花の、淡い色合いと優美な線。控えめな美しさや心地よさがあります。
そしてカンヴァスいっぱいに広がる伸びやかな枝は、まるで甥っ子の健やかな成長を祈っているかのようですね。
世界的に名高いゴッホですが、生前に売れた絵はたった1枚と伝えられています。そんなゴッホの才能を信じ、精神的に、そして経済的にも支え続けたのが弟テオでした。
ゴッホは弟テオが父親になることを喜び、絵を描きました。そしてテオは、産まれてきた息子に、ゴッホと同じフィンセントという名前をつけました。
《花咲くアーモンドの花》はゴッホ家を結んだ、愛に満ちた絵です。穏やかな空気感は、ゴッホの愛情が詰まった何よりの証と言えそうですね。
まとめ
ゴッホの代表作を見ると、改めてゴッホが描いた黄色の美しさを実感します。あるときには夜の灯りや三日月として、あるときはベッドとして。見れば見るほど心惹かれます。
最後に紹介した《花咲くアーモンドの花》は、ゴッホが命を絶つ前年に描かれました。そんなことを感じさせない穏やかさを感じませんか?家族をつなぐこの絵は、現在もファン・ゴッホ美術館に飾られています。