ゴッホ作品の《レストランの内部》は、明るく繊細な美しさが溢れる絵画です。穏やかな昼下がりの情景に、思わずくつろいだ気分になりますね。
ゴッホ作品《レストランの内部》をより深く味わうために、「明るい色彩・繊細な点描・平坦塗り」という3つのポイントで、作品を見てみましょう。
ゴッホ作品《レストランの内部》とは?
《レストランの内部》は、ゴッホのパリ時代の作品です。白いテーブルクロス、壁を飾る美しい絵画、花瓶から溢れんばかりに生けられた花。すべてが明るく穏やか。そして繊細です。
「近所にこんなレストランがあったら、休日のランチに通いたい!」そう思わせる、ほどよい華やぎがあります。それでいて、親しみやすい可愛さもあります。
ゴッホといえば、力強く情熱的、そして“炎の画家”というイメージではありませんか?あまりに印象が異なる《レストランの内部》を見て、「これがゴッホの絵?」と驚く方も多いことでしょう。
私自身もその一人。この絵の色彩を見た瞬間、すっかり魅せられてしまいました。いつ見てもくつろいだ気持ちになる、大好きなゴッホ作品の一つです。
色彩はどこまでも淡く、優しさがにじみ出ています。色の取り合わせも女性的ですね。
《レストランの内部》をもっと愉しむ3つのポイント
ゴッホ作品の《レストランの内部》を愉しむために、知っておきたいポイントを3つ紹介します。
ポイント(1)明るい色彩
《レストランの内部》の魅力といえば、やはり明るい色彩です。33歳のとき、ゴッホはパリに出ました。そして印象派の絵画と出会い、明るい色彩に目覚めたのです。
当時パリで人気を集めていた画家といえば、ルノワールやモネ、ピサロたち。印象派の画家です。
たとえばルノワール。人物画が有名ですが、花の静物画も描いています。こちらは静物画の代表作の一つ《菊》です。
画面からこぼれ落ちそうな菊の束が、とても豪華!そして一輪一輪の、なんと美しいこと。オレンジ色がかった黄色、青味を含んだ白、そして淡い桃色を帯びた白。繊細な色彩に魅了されます。
ピエール=オーギュスト・ルノワール《菊》1882年 シカゴ美術館蔵
パリに出てくるまでのゴッホは、落ち着いたトーンの色彩の絵を描いていました。バルビゾン派のミレーやコローを敬愛していたゴッホ。色彩とはいわば大地の色であり、深みを帯びた木々の色だったのです。
ところがパリの絵画は違いました。光を感じる明るい色彩、豊かな色調……ゴッホにとって、はじめて触れる世界観です。
思わず絶句して見とれたのでしょうか?それとも一緒に暮らしていた弟テオと、言葉を尽くして感動を分かち合ったのでしょうか?
いずれにせよ、きっとまぶしさと憧れを抱いたに違いありません。その想いが《レストランの内部》の明るさに結実しています。
ポイント(2)繊細な点描
《レストランの内部》は、細やかな点描技法も大きな特徴です。この絵には、赤や緑、黄色など、純粋な色の“点”が敷き詰められています。その細かいこと!そして多いこと!
フィンセント・ファン・ゴッホ《レストランの内部》1887年 クレラー・ミュラー美術館蔵
この描き方は、当時のパリで注目を集めていた技法の一つ。生み出したのは、新印象派と呼ばれる画家ジョルジュ・スーラ、そしてポール・シニャックでした。
スーラといえば、有名なのがこちらの作品。《グランド・ジャット島の日曜日の午後》です。
ジョルジュ・スーラ《グランド・ジャット島の日曜日の午後》1884年ー1886年 シカゴ美術館蔵
言わずとしれた、そして後世に残る名作ですね。スーラはこの絵を完成させるのに、2年もの時間をかけたのだとか。
そして《グランド・ジャット島の日曜日の午後》は、1886年の「第8回印象派展」に出品されました。当時パリにいたゴッホは、この作品を目にしています。
その翌年ゴッホが描き上げたのが《レストランの内部》です。ゴッホは自らの技法にも、点描画法を取り入れたのですね。
ポイント(3)ゴッホらしい“平坦塗り”も!
点描技法が使われた《レストランの内部》ですが、よく見ると……椅子の脚やテーブルクロス“点”ではありません。
広い面を平坦に、そして伸びやかに塗っています。そのおかげで、テーブルクロスの白さや椅子の明るい茶色が際立っています。
点描技法を使えば、色彩は明るく表現できます。そもそも点描技法が好まれたのは“色を混ぜ合わせない”ため。色を独立させることで、色が暗く濁ることを防いだのです。
ゴッホの《レストランの内部》も、光を感じる明るい色調に仕上がっていますよね。
でもきっとゴッホは、好きな色はもっと伸び伸びと塗りたかったのでしょう。点描の部分は、とても辛抱強く点を置いていったのでしょうか?想像すると“人間ゴッホ”が垣間見えるようです。
まとめ
ゴッホ作品の《レストランの内部》は、明るい色彩や細やかな点描など、繊細な美しさが溢れう絵画です。すべては、ゴッホがパリで新しい技術や価値観を吸収していた証です。
このレストランでは、一体どんな料理が食べられるのでしょうか?想像を巡らせるのも楽しいひとときです。