ゴッホ作品の《雪景色》は、遠くにアルルの街並みが見え、雪化粧をした田園風景がとても美しい絵画です。
ゴッホ作品《雪景色》をより深く味わうために、「60cmもの大雪・高い地平線・日本の雪への憧れ」という3つのポイントで、作品を見てみましょう。
ゴッホ作品「雪景色」とは?
《雪景色》は、ゴッホのアルル時代の作品です。手前に配した板囲いのおかげで、雪の白さが柔らかく映え、のどかな美しさが漂います。
南仏アルルは、明るい陽光を求めてゴッホが移り住んだ場所でした。まばゆい世界とは違った魅力のある貴重な一枚です。
《雪景色》は、「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」(2017年8月~2018年3月/北海道立近代美術館・東京都美術館・京都国立近代美術館)で初公開され、話題を集めた名作でもあります。
《雪景色》をもっと愉しむ3つのポイント
ゴッホ作品の《雪景色》を愉しむために、知っておきたいポイントを3つ紹介します。
ポイント(1)60cmもの大雪
1988年2月20日、南仏アルルに到着したゴッホを出迎えたのは、一面の銀世界。なんと60cmもの大雪が降り積もっていました。
南仏アルルは、温暖な地中海性気候の土地。ところが記録的な寒さで、珍しく雪が続いていたのです。
ゴッホにとっても、よほど印象的だったのでしょう。アルルに到着した翌日には、弟テオ宛に手紙で雪のことを知らせています。
いまこの辺一帯に六十センチもの雪が積って、まだ降り続いているのを知らせることから始めよう。
(引用)1961年 岩波文庫 ヴィンセント・ファン・ゴッホ著、ボンゲル編、硲伊之助訳『ゴッホの手紙(中)テオドル宛』19Pより
60cmといえば、かなりの大雪です。凍てつくような寒さを連想します。でも、ゴッホの「雪景色」に描かれた雪の白には、どことなく温かみが感じられますね。その明るさに、ゴッホが抱いていたアルルへの期待を感じます。
ゴッホはオランダ時代にも、雪の絵を描きました。オランダ時代の雪の絵は、とても暗い色調です。
フィンセント・ファン・ゴッホ《雪の中のニュネンの古い共同墓地の塔》1885年 スタブロス・ニアルコス・コレクション
フィンセント・ファン・ゴッホ《雪の中のニュネンの牧師館の庭》1885年 ノートン・サイモン美術館蔵
アルルで描いた《雪景色》とは、印象が異なりますね。南仏アルルの雪は、きっと明るい日差しを反射した雪。ゴッホは穏やかな色を感じ取ったのかもしれません。
ポイント(2)高い地平線
ゴッホ作品の《雪景色》は、浮世絵にならった地平線を高くした構成も特徴です。
当時のヨーロッパの風景画では、地平線をここまで高くする構図は珍しいことでした。浮世絵と出会い、模写を通して技法や構図を研究し、エッセンスを吸収したゴッホならではですね。
ゴッホと浮世絵の関係については、別記事で紹介しています。ぜひあわせてご覧ください。
ポイント(3)日本の雪への憧れ
アルルで雪景色を見たゴッホは日本を想い、《雪景色》を描きました。
フィンセント・ファン・ゴッホ《雪景色》1888年 個人蔵
元はといえば、明るさを求めてのアルル移住でした。さぞや落胆したのでは……と思ってしまいます。
ところが何のその。雪を見たゴッホは「日本のようだ!」と感動します。日本美を見出し、むしろ喜んだのです。
ゴッホは浮世絵を通して、日本に降る雪の絵を見ていました。
歌川広重《東海道五十三次之内 蒲原 夜之雪》
歌川広重《東海道五十三次之内 亀山 雪晴》
アルルで雪を見たゴッホは、きっと遠い日本に想いを馳せたのでしょう。雪景色を見た感想を、先ほどと同じ手紙につづっています。
雪とおなじように明るい空へ聳える白い峰の雪景は、まるで日本人が描く冬景色のようだった。
(引用)1961年 岩波文庫 ヴィンセント・ファン・ゴッホ著、ボンゲル編、硲伊之助訳『ゴッホの手紙(中)テオドル宛』20Pより
「まるで日本人が描く冬景色」という言葉に、ゴッホの静かな喜びが感じられて、とても温かい気持ちに包まれます。
まとめ
ゴッホ作品の《雪景色》は、南仏アルルに到着したゴッホを出迎えた、思いがけない雪を描いた作品です。60cmもの大雪、でも不思議と穏やかさが漂う美しい作品です。
雪を描きながら、ゴッホは雪解けを待ちました。そして春が訪れると屋外へと出かけ、数々の名作がアルルで誕生することになるのです。