ゴッホ作品《夾竹桃と本のある静物》とは?魅力と3つの鑑賞ポイント

ゴッホ作品の《夾竹桃と本のある静物》は、アルル時代の作品です。緑の壁を背景に、桃色の可愛い花や生い茂る緑の葉など、大胆で明るい色調が心に残る絵画ですね。

ゴッホ作品《夾竹桃と本のある静物》をより深く味わうために、「ゴッホが愛した花・浮世絵の影響・ゾラの小説」という3つのポイントで、作品を見てみましょう。

ゴッホ作品「夾竹桃と本のある静物」とは?

《夾竹桃と本のある静物》は、南仏アルルで咲く桃色の夾竹桃の花が、花瓶にたっぷりと生けられた様子を描いた静物画です。

アルル時代といえば、ゴッホがたくさん風景画を描いた時代です。違う言い方をすれば、アルル時代は花の絵が少なめ。花の美しさを描いたアルル時代のゴッホ作品としても、貴重な一枚です。

《夾竹桃と本のある静物》は、「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」(2017年8月~2018年3月/北海道立近代美術館・東京都美術館・京都国立近代美術館)で初公開され、話題を集めた名作でもあります。

《夾竹桃と本のある静物》をもっと愉しむ3つのポイント

ゴッホ作品の《夾竹桃と本のある静物》を愉しむために、知っておきたいポイントを3つ紹介します。

ポイント(1)夾竹桃はゴッホが愛した花

ゴッホといえばひまわりのイメージですが、実は夾竹桃(キョウチクトウ)も、ゴッホお気に入りの花でした。

アルルの「黄色い家」の入り口にも、「夾竹桃の木を2本飾ろう、樽に生けて」と考えていたことが伝わっています。

南仏アルルに理想の世界を求めたゴッホは、芸術家どうしが切磋琢磨できる“芸術村”を作ろうと考えました。その舞台となったのが「黄色い家」です。


フィンセント・ファン・ゴッホ《黄色い家》1888年 ファン・ゴッホ美術館蔵

ゴッホはパリにいる芸術家仲間たちに、熱い気持ちを伝えました。新天地アルルで始まるであろう、仲間たちとの新しい生活。そんな夢を思い浮かべたゴッホにとって、夾竹桃は生きる喜びを象徴する花だったのです。

同じく南仏アルル時代に描いた絵画に、《ラ・ムスメ》という作品があります。

フィンセント・ファン・ゴッホ《ラ・ムスメ》1888年 ナショナル・ギャラリー蔵

女性の手に注目してみてください。そう可愛らしい小さな手に持っているのは、夾竹桃の花ですね。ゴッホが夾竹桃を気に入って、繰り返し描いていたことが伝わる一枚です。

ポイント(2)明るい色調や輪郭線など浮世絵の手法

「夾竹桃と本のある静物」にも、ゴッホが愛した浮世絵の影響がそこかしこに見られます。

たとえば、浮世絵のような大胆で明るい色調。そのおかげで、夾竹桃の桃色と葉の緑色、そして本の黄色のコントラストが効いています。

そして、くっきりと描かれた輪郭線。そのおかげで葉のシャープさが際立ち、花のふっくらとした優しさが伝わってきますよね。

ゴッホと浮世絵の関係については、別記事で詳しく紹介しています。ぜひご覧くださいね。

ゴッホは、日本の浮世絵から影響を受けた画家として有名です。でも一体、なぜ浮世絵に惹かれたのでしょうか?浮世絵をどのように、自分の作品に生かし...

ポイント(3)テーブルの隅に置かれているのはゾラの小説

夾竹桃の脇に置かれている本は、エミール・ゾラの小説『生きる歓び』です。ゴッホが「闇の中に光を射す本」として、愛読していた大事な一冊でした。

フィンセント・ファン・ゴッホ《夾竹桃と本のある静物》1888年 メトロポリタン美術館蔵

エミール・ゾラは、1840年フランス生まれの文豪です。南仏エクス・アン・プロヴァンスの明るい陽光のもとで育ちました。“近代絵画の父”セザンヌとゾラが、この地で親友であったエピソードは有名ですね。

セザンヌは、資産家の息子として育ちました。実家を描いたセザンヌの作品《ジャ・ド・ブッファンの池》を見ても、豊かな生活ぶりが伝わってきます。


ポール・セザンヌ《ジャ・ド・ブッファンの池》1876年 エルミタージュ美術館蔵

一方、母子家庭に育ちあまり裕福ではない上に、ひ弱だったゾラ。ある日、学校でいじめにあっていたゾラを、セザンヌが救いました。

そして「助けてもらったお礼に……」と、翌日籠いっぱいのリンゴをセザンヌに贈ったことから、二人の友情は始まりました。りんごがきっかけで結ばれた少年たちの固い友情。とても美しい青春の一コマですね。


ポール・セザンヌ《開いた引出しのある静物》1877-1879年 個人蔵

ところがゾラがパリに出て、小説家として成功をおさめた頃から二人の関係に変化が現れます。一方のセザンヌはパリで絵を描き、サロンに挑むものの落選続き。とにかく芽が出ません。

ベストセラー作家となったゾラと、父親からの仕送りも絶たれて落ち込むセザンヌ。お互いに価値感が合わなくなっていくのです。そんな中、1886年にゾラが発表した小説『制作』が、最後の一撃となりました。

制作の主人公は、知る人が見ればセザンヌがモデルであることは明らか。しかも主人公の価値観を否定する描き方であることが決定打となり、二人は絶交してしまうのです。

生前は評価されなかったセザンヌですが、没後に確固たる地位を築きました。今ではゴッホと並び“後期印象派の巨匠”として有名です。

セザンヌとゴッホ、そしてゾラ。見えない糸、不思議なご縁を《夾竹桃と本のある静物》に感じると、より味わい深くなる気がします。

まとめ

ゴッホ作品の《夾竹桃と本のある静物》は、一目見ただけで明るい色彩に惹きつけられる作品です。アルル時代のゴッホらしさに溢れた一枚ですね。

見ていて幸せな気持ちになるのは、ゴッホがアルルでの暮らしを存分に愉しんでいた証拠。そして、仲間の到着を待ち望む期待感が、絵に表れているからなのでしょう。

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