ゴッホ作品の《薔薇》は、花瓶から溢れんばかりのバラを描いた、優雅で気品漂う絵画です。
ゴッホ作品《薔薇》をより深く味わうために、「回復の喜び・本当はピンク色・メトロポリタンのもう一枚」という3つのポイントで、作品を見てみましょう。
ゴッホ作品《薔薇》とは?
ゴッホ作品の《薔薇》は、療養所で暮らしたサン=レミ時代に描かれた作品です。花びらが幾重にも柔らかく重なって、とても優雅。まるでモッコウバラのような気品が漂います。
美しいのは、咲いている薔薇だけではありません。この絵には、開花を待つ蕾もたくさん描かれています。生命力が感じられる一枚です。
そして、ゴッホの《薔薇》は緑も美しい絵画だと思いませんか?葉の緑を見れば、とても濃淡豊か。背景を染める緑は淡く、とても瑞々しいのです。しなるように伸びる枝にも、ゴッホの優しいまなざしが感じられます。
ゴッホ作品の《薔薇》は、見ているだけで穏やかな心地に包まれる絵画。いつまでも愛でたくなる一枚です。
《薔薇》をもっと愉しむ3つのポイント
ゴッホ作品の《薔薇》を愉しむために、知っておきたいポイントを3つ紹介します。
ポイント(1)回復の喜びが溢れる絵画
ゴッホ作品の《薔薇》はとても明るい絵。ゴッホの回復の喜びが溢れています。それもそのはず、療養所での生活を終え、退院直前に描いた絵なのです。
ゴッホが療養所にいたのは、とある事件を起こしたため。かの有名な「耳切り事件」です。
フィンセント・ファン・ゴッホ《耳に包帯をした自画像》1889年 コートールド・ギャラリー蔵
「耳切り事件」を起こした後、街の人たちはゴッホがアルルを離れることを望みました。また同じような事件を起こしたら……と心配したのでしょう。
ゴッホにとって、アルルは恋焦がれて住んだ土地でした。別記事「ゴッホの代表作7選!全盛アルル時代を中心に有名作品を紹介」でも紹介した通り、数多くのゴッホの名作が生まれた場所でもあります。
きっと離れがたい気持ちでいっぱいだったでしょう。ところがゴッホは、アルルに住み続けることができなくなりました。そして健康を回復すべくサン=レミに移り、療養生活を送っていたのです。
療養所での生活を経て描いた、この《薔薇》の絵。もはや気持ちの乱れは感じられません。漂うのは心地よい空気です。穏やかさや希望、安らぎ……ゴッホ自身、おそらく回復の喜びをかみしめていたのでしょう。
ポイント(2)本当はもっとピンク色だった
ゴッホ作品の《薔薇》は、白バラに見えます。ところがこの白、本来の色ではありません。長年の間に、退色してしまったのだとか!
描かれた薔薇の色は、元はといえばもっとピンク色だったのだそう。たしかによく見ると、真っ白ではなくピンクを帯びていますよね。
フィンセント・ファン・ゴッホ《薔薇》1890年 ワシントン・ナショナルギャラリー蔵
ピンクと緑だと、また違った印象の絵だったのでしょう。でも、白いバラになったことで清らかな印象を受ける絵になっていますね。
ポイント(3)メトロポリタン美術館にも「薔薇」がある
ほぼ同じ時期に、ゴッホはもう一枚薔薇の絵を描きました。現在メトロポリタン美術館に所蔵されている「花瓶の薔薇」です。
フィンセント・ファン・ゴッホ《花瓶の薔薇》1890年 メトロポリタン美術館蔵
全体の雰囲気は、とてもよく似ています。恐らく同じ薔薇を描いたのでしょう。でもよく見ると、やはり違うのです。生けている花瓶が違ったり、メトロポリタンの薔薇は縦長の作品だったり。
ワシントン・ナショナルギャラリーの《薔薇》は、しなるように柔らかく広がる薔薇というイメージ。メトロポリタンの《花瓶の薔薇》は、縦に伸びる端正な姿が印象的な一枚ですね。
同じタイミングで描かれた2枚の薔薇の絵画、違いを探すのも楽しみの一つです。
まとめ
ゴッホはサン=レミで2枚の薔薇を描いた後、オーヴェル・シュル・オワーズへと移りました。そして自ら命を絶ちます。でもそんなことを感じさせないほど、オーヴェールでも明るい絵をたくさん描きました。
初夏の清々しい緑が美しい「ドービニーの庭」は、特に人気のある一枚です。日本で見られるゴッホの絵画でもあります。詳しくは別記事で紹介しています。ぜひご覧くださいね。